あげはちょう(2)

おとなりさん

数年前のことです。みかんの葉に毛子を見つけた私は、お隣の坊やたちのママに聞きました。

「うちの木に、ちょうの幼虫がいるの。お宅のぼっちゃん、欲しいかしら?」

「え、青虫?やだやだ、きもち悪い、けっこうですわ」

数時間後、そのママがやってきて、きまり悪そうに言いました。

「済みません、幼虫いただけるかしら。子供がどうしても欲しいっていうので」

「いいですよ」

(よっしゃ)と私は、急いで植木鋏を持ってみかんの木の枝を切り、卵や毛子の付いた木の枝を隣のママに渡しました。

ひと月きほど経ったとき、

「蝶になったんですよ。元気に飛んでいきました!」

このお隣さん。今年も幼虫を飼っています。

HくんとWさん

私は、外国ルーツのため、学校の勉強に追いつくのが難しい小学生の勉強を家で見てあげています。ある日、毛子を見つけた私は、その枝を花瓶にさして、その子が勉強する机に置いてみました。

「やだよ、気持ち悪い」

でも、そのままにしておきました。

「青虫になったわよ。ほらかわいいでしょ?」

私はそっと青虫をなでてみせました。

その子はびっくりして、気持ち悪そうに、のけぞりました。

そして不思議そうに私の顔を見上げました。「変なの」とでもいうように。

彼が来るたびに青虫は大きくなっています。

ある日Hくんは、そっと青虫を撫でて、にっこりして私の顔を見ました。

この青虫の成長を楽しんで見ていた人が他にもいました。

お習字を教えにいらしてくださるWさんです。

「あら、こんなに大きくなったの」と楽しそう。

ある日私は言いました。

「きのう、びっくりしちゃいました。青虫を踏んづけそうになったの。青虫が床を這ってたので、あらこんなとこにいたらだめでしょ、って言って葉っぱを差し出して、さ、お乗りなさいって言っても乗ってこないで違う方に行くの。葉っぱを鼻先にくっつけたら、いやいやって首ふって」

「ほんとに?そんな事する?」

彼女はお腹を抱えるて笑い転げました。

「ほんと、いやいやって首ふったの。それでね、もう蛹になりたいんだな、と思って青虫を乗っけた木の枝を壁にくっつけておいたの。そして一晩寝て起きたら、ほら、こんなところで蛹になって」

「どれどれ」彼女は私の指差す出窓の脇の壁を見上げました。

そこには、角を出して睨んだ顔のような模様の茶色の蛹が、胸の紐に引っ張られるようにして反り返ってついていました。

「あーら、こんなになるの」

とまじまじと蛹を見つめ、彼女はおもむろにスマホの写真に収めました。

やがてみんな蛹のことを忘れた頃のことです。

勉強しているHくんの頭の上をなにかがかすめました。

Hくんはハッとして見上げました。すると大きなキアゲハが飛んでいるではありませんか。

Hくんは大声を上げていすからとびおりました。

「あ、ちょうちょだ。あのあおむしがちょうになったの?」

しばらくびっくりして眺めていましたが、

「大きいね。こんな立派なちょうちょ僕初めてみたよ」そして神妙な顔をしていいました。

「おばちゃんがいっしょうけんめいかわいがって育てたからだね!」

ちょうちょはひらひらと飛んでは白い壁にとまり、大きく羽を広げて一休み、また飛んでは額縁の影にかくれたり。Hくんは夢中で蝶を追いかけ、一杯に広げたちょうの黄色や黒い線や後羽の青い模様を見つめて、「きれい」とため息を付きながら何時までも眺めていました。

今年もふたりとも青虫の成長を楽しみにしています。

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